【成分表連載41】「し好飲料」の見方 お茶 編

渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2024』本表監修(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。

玉露は60℃、せん茶は90℃で淹れたお茶

暑さが続いています。前回に続き、今回はアルコールを除く甘くない飲料についてご紹介します。

成分表のし好飲料類に収載されている、常用されている甘くない飲料には、玉露、せん茶、かまいり茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、なぎなたこうじゅ、麦茶があります(浸出液)。

これら浸出液がどのような淹れ方をしたものであるかは成分表の備考欄に浸出法として記載されています(表1)。この淹れ方でお茶を淹れてみると、成分表に収載されているお茶に近いお茶を飲むことができます。すなわち、標準的な淹れ方がわかりますので、ぜひ一度試してみてください。

なお、最近は、急須のない家庭もあると聞きますし、オフィスや会議でもペットボトルでの飲用が主になっているようです。将来的には、工業的に生産されるお茶の浸出液が、標準的な食品の1つとして成分表に収載される可能性もありそうです。

表1 成分表に収載されているお茶等の浸出液の淹れ方

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」の備考欄から抜粋

お茶類は発酵によって種類が分けられます

茶類は、一般的に上級品と下級品の品質格差が大きく成分含有量も異なっていますが、成分表の試料は中級品です。成分表のお茶を試飲しようという場合には、中級品を入手してください。

成分表には、<茶類>は、不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(ウーロン茶、包種茶等)、発酵茶(紅茶)及び蒸製堆積発酵茶(黒茶、プーアール茶等)が収載されています。

これらは茶樹の芽葉を原料として製造されています。発酵させない緑茶、半分発酵させたウーロン茶、発酵度が強い紅茶は、発酵の有無と程度により、外観(色や形)、茶葉の香り、浸出液の色、香り、および味に大きな相違があり、発酵の影響力(魅力、恩恵)を実感できます。発酵により、栄養成分量にも違いがあります。

不発酵の緑茶類は6種類。ほうじ茶も緑茶類です

緑茶は日本で愛飲され日本茶とも呼ばれています。茶葉を加熱して茶葉の酵素を失活させて酸化を防ぎ、鮮やかな緑色を保持させたお茶です。また、緑茶は加熱に蒸気を使用する蒸し製(生産量の大半がこれです)と、釜で炒(い)る釜炒り製があります。釜炒り茶は、九州地方の一部で製造されています。また、中国の緑茶はほとんどは釜炒り茶です。

成分表では緑茶の浸出液は6つの食品が収載されています。成分表の資料に載っている解説をまとめてみました。

成分表に浸出液が載っている緑茶類

玉露 被覆栽培した上質の原葉を使用したお茶

せん茶 茶葉を蒸して揉んだ荒茶(葉の形状を整え、水分含量を下げ、保存に適する状態にした茶)。一般的なお茶

抹茶 碾(てん)茶を臼で挽いたお茶

番茶 硬化した芽から製造するか、又はせん茶の製造過程で粗大な部分を集めたお茶

ほうじ茶   番茶及びせん茶の再製で生じた頭と称する大型茶をほうじたお茶。現在はせん茶や青茎を混入するなど一つの独立した茶種として扱われている

玄米茶   せん茶50 %に煎(い)ったもち米10 %を蒸して乾燥後、焙煎(ばいせん)したうるち精白米40 %を混合したもの。配合のばらつきは大きい

発酵茶は2種類。半発酵のウーロン茶、しっかり発酵の紅茶

緑茶類と同様に、茶樹の芽葉を原料とした飲料であるウーロン茶と紅茶の成分表の解説をまとめてみました。

成分表に浸出液が載っている発酵茶類

ウーロン茶 半発酵茶。茶葉を日光に当て少ししおれさせた後、さらに室内で十分しおれさせ、酸化反応をある程度進ませてから、釜入り加熱して発酵を止め、もんで乾燥させたお茶。緑茶や紅茶とは異なる独特の香りを持っている

紅茶 発酵茶。茶葉をしおれさせてよくもみ、葉中の酸化酵素により特有の香味をもたせるとともに、タンニン等の酸化を進めて製造した赤黒色のお茶。紅茶の浸出液はセイロンディンブラ、ダージリン、アッサム、ウバ、ルフナ及びケニヤを試料としたお茶。それぞれ、4分、4分、4分、2.5分、2.5分及び1.5分で浸出したものを試料としている(備考欄での表記は「1.5~4分」となっている)

コーヒー、麦茶、なぎなたこうじゅも載っている

成分表のし好飲料類では、茶類以外の砂糖を加えない飲料は、コーヒー、なぎなたこうじゅ、麦茶です。

成分表に浸出液が載っている茶葉以外の甘くない飲料

コーヒー    コーヒー樹の果実から外皮、果肉等を除去した生豆を適当な温度で焙煎(ばいせん)したものが炒りコーヒー豆。この炒りコーヒー豆を適当な大きさに破砕したものがレギュラーコーヒー、これを熱湯で浸出したものがコーヒーの浸出液。なお、増補2023年で新たに収載された「缶コーヒー、無糖」は市販品を試料としている。

麦茶    殻付きの大麦の種子を焙煎したものを湯で煎じる、あるいは水で浸出して作る飲料。日本では夏に冷やして飲用されることが多い。近年は焙煎種子がティーパックに詰められて販売されている。

なぎなたこうじゅ   シソ科ナギナタコウジュで、アイヌ民族が伝統的に利用してきた植物。焙煎(ばいせん)した茎葉及び花を煮だして浸出液を作る。

成分の違いを成分表で確認してみると……?

表2に成分表に収載されているお茶等の水分と備考欄のカフェインとタンニンを示しました。カフェインもタンニンも玉露浸出液が圧倒的に多く含有しています。

表2 お茶等のカフェインとタンニンの含有量(g /100g)

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」から抜粋

玉露は、玉露以外の収載値のある他のお茶等と比べると、カフェインは他の平均値(0.02mg)の7.1倍、タンニンは他の平均値(0.07mg)の3.6倍です。

これらのお茶等の無機質やビタミンなども、カフェインやタンニンと同様にお茶の種類によって大きな相違があります。ぜひお手元の成分表の成分値をご覧ください(女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2023』では248~253ページ)。玄米茶を除く緑茶類は他の茶類や飲料に比べ、無機質やビタミン類を多く含むことがわかります。

お茶の味、色、香りのし好を大切にしつつ、成分値を参考に、なにを飲むか、あるいはなにを提供するかを考えてみるのも一案です。

最近は、これらの飲料は缶やペットボトル入りの茶飲料を飲むことが多いですが、これらの製品の基本的な栄養成分値は、浸出液に準ずると考えましょう。それは、工業的な製品も目標が「急須で淹れたお茶」であるなど、成分表の方法で提供しているような飲料を目指しているからです。また、栄養成分表示が記載してある場合は、記載されている成分については、表示の値を優先して栄養計算に用いましょう。特に、原材料にビタミンC(変色や風味の劣化を防止します)と表示されているものは、浸出液よりビタミンC含量が多くなっていると考えられます。留意してください。

一方、これらの飲料は、好みに応じて砂糖、生クリーム、牛乳、アイスクリーム、香りづけのアルコールを加えて飲む場合があります。これらを加えた商品もあります。その場合には、加えた食品に由来するエネルギー量が付加されることにも留意しましょう。

なお、飲用する場合の栄養計算に用いるのは基本的に「茶」(茶葉を指す)の項目の成分値ではなく「浸出液」の成分値ですが、茶葉を粉砕して飲用とする場合は、もちろん「茶」の収載値を利用します。


追記(2023年8月2日)

抹茶の浸出液についてはどうかとお問い合わせがありましたので、追記いたします。

抹茶の浸出液

抹茶の浸出液は成分表には収載されていませんが、日常的にお抹茶を飲む方もいらっしゃいます。抹茶は大量に飲む飲料ではなく、茶匙2杯程度をお湯70mLで立てるのが一般的とされています。ご自分が使用する抹茶の質量を計量すれば、それがそのまま摂取量です。その分の栄養素量を摂取することになりますので、栄養計算のさいにはご留意ください。

粉末や顆粒のインスタントコーヒーやココアも同様です。お湯などに溶いて飲料にする場合には、使用量から栄養計算します。