【成分表連載42】「し好飲料」の見方 甘い飲み物 編

渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2024』本表監修(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。

茶、コーヒー、紅茶はそのままでもおいしく、また、お砂糖やミルクを加えれば甘くコクがある飲料に変わります。ブラックコーヒー、ストレートティー、カフェオレ、ミルクティー……どれもそれぞれおいしいですね! 今回は、し好飲料の最終回として、甘い飲料についてご紹介します。

甘い飲料は甘さの原料になっている食品(砂糖など)に由来するエネルギーを持つ食品です。飲料は噛まずに摂取するため、無意識に多くのエネルギーを摂取してしまう場合もあります。エネルギーの制限が必要な場合には、注意して摂取すべきでしょう。

一方、エネルギーの摂取がむずかしい方にとっては、甘い飲料は手軽にエネルギー量を増加できる好ましい食品の1つです。

甘い飲料を摂取する場合は、エネルギー量と糖類(単糖類および二糖類の総量)に留意します。糖類は炭水化物成分表を用いると計算できますし、女子栄養大学出版部の『八訂食品成分表2023』では本表に計算した糖類(※)が収載してあり、便利です。

※糖類

糖類(単糖及び二糖類)の過剰摂取が肥満やう歯の原因となることは広く知られています。そのため、たとえばWHO はその中の free sugars(遊離糖類:食品加工又は調理中に加えられる糖類)の摂取量に関する勧告を出し、総エネルギーの 10% 未満、望ましくは5% 未満に留めることを推奨しています。

しかし、日本では、「日本食品標準成分表」に単糖や二糖類などが収載され食品数が充実したのは、2020年版(八訂)の分冊版である、炭水化物成分表編からです。そのため、これまで日本での糖類の摂取量の把握が困難で、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では糖類の基準の設定が見送られています。

今後、糖類の目標量の設定のための研究が進むと期待されます。読者の皆さんも、これまでの献立を再計算してみると糖類の提供量を明らかにできます。

なお、日本食品標準成分表における糖類の欠損値を補完した上で日本人における糖類摂取量を調べた研究では,その平均摂取量は幼児(18〜35 か月)の男児で 6.1、女児で6.9% エネルギー、小児(3〜6歳)男児7.6、女児7.7% エネルギー、学童・生徒(8〜14 歳) 男児(男性)5.8、女児(女性)6.0% エネルギー、成人(20〜69 歳)で男性 6.1、女性7.4% エネルギーであったと報告しています。そのため、日本でもその過剰摂取に注意すべき状態であるおそれが示唆されていると「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では記載されています。

糖類に注目! 利用可能炭水化物で代用できる場合も

表1にし好飲料類の甘い飲料とビール風味炭酸飲料(お茶類でも甘い飲料でもアルコール飲料でもないので便宜的に加えました)のエネルギー、利用可能炭水化物、糖類、食塩相当量を示しました(増補成分表2023の値)。
質量(重量)と容量が異なるので、100gの容量と100mLの質量も示しました。利用炭水化物の質量を最も多く含む甘酒の100gあたりの容量が最も小さい値です。表1からわかるように、甘い飲料は100mLを容器に入れる場合は、少しだけ控えると重量100gに近づけることができます。違いは少量なので、健康な人であれば気にする必要はありませんが、たくさん飲む場合はご注意ください。

スポーツドリンク、果実色飲料、ビール風味炭酸飲料は原料食品として炭水化物に寄与する食品は甘味料だけです。これらの食品は、炭水化物成分表の収載はありませんが、利用炭水化物の値を糖類の推定値と利用してもよさそうです 。

表1 嗜好飲料類の甘い飲料とビール風味炭酸飲料のエネルギーと主要な成分(100gあたり)および100gの容量と100mLの質量

「日本食品標準成分表(八訂)増補2023」より。糖類については、これをもとに算出した『八訂食品成分表2024』(女子栄養大学出版部)より

表1を見ると、缶コーヒー、甘酒、スポーツドリンクに食塩相当量が「0.1~0.2g」も含まれていることがわかり驚かれたかもしれません。

スポーツドリンクの利用可能炭水化物の成分値「5.1g」にも同様に驚かれたかもしれません。スポーツドリンク、果実色飲料、ビール風味炭酸飲料は原料食品として炭水化物に寄与する食品は甘味料だけなので、炭水化物成分表の収載はありませんが、この値を糖類と推定することができます。

スポーツドリンクは簡単に作ることができます。文部科学省の「食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)」では、「第6章 個別的な相談指導の進め方」の「第5節 具体的な指導方法」の「6. スポーツをする児童生徒」の項で作り方を次のように記載しています。

スポーツ ドリンクの作り方

飲料の濃度は、0.1 ~ 0.2% の食塩と、4~8% の糖質(水1L に食塩1~2g、砂糖 40 ~ 80g)に設定します。水に風味付けにレモン汁などを加えると、飲みやすくなります。また、麦茶に食塩と砂糖を加えればスポーツドリンクになります。「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」(平成31年3月)より

この作り方で作ってみると、食品成分表を使って栄養計算ができます。その場合、使った砂糖や塩の商品名や原材料表示を読み、食品成分表から対応する食品を選択することが正しい栄養計算につながります。水道水の無機質量も加算しましょう! 

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学生Aさん(企業に勤務後に進学)が本校に進学した動機を伺った時は衝撃でした。

「人は食べ物で死んでしまうんですね。部下が毎日、毎日、甘い炭酸飲料500mLを朝昼晩の3回(1日1500mL)以上を飲んでいました。この部下が、ある日、突然、糖尿病で亡くなったのです。会社の同僚は、私も含め、彼は甘い炭酸飲料が好きなんだと思っていました。このことで、甘い飲料の飲みすぎってあるんだな、食べ物で死に至ることがあるんだな、食品と体について知ることは大事だなと、食生活の重要性を認識し、進学しました」

飲料は習慣的に選択し、大量に飲んでいる場合があります。その食品の特徴を知り、適量を守ることは飲む人にとってもその食品にとっても大切です。

食べる楽しみを生涯続けるためにも、食品成分表を活用していきましょう。