渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
先日、京都府の栄養教諭や栄養職員の先生がたの研修会でお話させていただきました。
2学期が始まる頃ですが、夏休みなどの給食がない時期にも、栄養教職員の皆さんは献立の見直し、調理器具・用具の点検、業務のための研修などを行なっています。いつも子どもたちの健康を給食や食育で支え、日本の子どもの健康づくりに大きく寄与しています。
さて、その京都府の研修会での質問が、栄養教諭や栄養職員の皆さんの共通した問と思うので、それについて記載します。
《ご質問》
「ししゃもの骨を食べてほしいのに、身だけを食べる子どもがいます。全部食べることのよさを伝えたいのですが、成分表を使って説明できませんか?」
このご質問について、順を追ってご説明しましょう。
1)成分表の「ししゃも類」の収載食品
成分表では、ししゃも類は、「ししゃも」と「からふとししゃも」に区分され、それぞれ「生干し、生」と「生干し、焼き」が収載されています。「生干し、生」は魚体を塩漬け後、軽く水洗して乾燥したものです。「生干し、焼き」は、魚体全体を電気ロースターでおいしそうな焼き色に焼いたものです。
成分表の試料分析用の調理に用いられる電気ロースター(『栄養と料理』2023年3月号より。協力:日本食品分析センター)
成分表に載っている「ししゃも類」
ししゃも 生干し 生
ししゃも 生干し 焼き
からふとししゃも 生干し 生
からふとししゃも 生干し 焼き
2)「ししゃも」と「からふとししゃも」
ししゃもは、柳の葉に似た姿から、アイヌ語の「シュシュ・ハモ(シュシュ:柳、ハモ:葉)」が名前の由来とされています。ししゃもの漢字も柳葉魚と書きます。北海道の東南部に分布し、産卵のために遡上した子持ちししゃもが特に美味とされています。
一方、からふとししゃも(樺太柳葉魚)は、ケペリンあるいはカペリンとも呼ばれ、北大西洋と北太平洋に莫大な資源があり、かつては食用とされていませんでした。今はししゃもの代用品として大量に輸入されています。市場に出ている子持ちししゃものほとんどはからふとししゃもです。2種類のししゃもの見分け方を表1に記しました。
表1 「ししゃも類」の外観の相違(見分け方)
ししゃも | 背部は暗黄色、腹部は銀色 からふとししゃもより歯が大きく、鱗も大きい 成熟した雄は黒っぽい |
からふとししゃも | 背部は黒色、腹部は銀色 ししゃもより歯が微小、鱗も小さい 成熟した雄は黒っぽい |
3)成分表では「ししゃも」と「からふとししゃも」の可食部位は違う
ししゃもの廃棄部位は頭部及び尾、廃棄率は10%です。一方、からふとししゃもは全体が可食部なので、廃棄率は0%です。
この廃棄部位を見て、ししゃもは頭と尾を除いて食べることを、からふとししゃもは全体を食べることを推奨していると勘違いするかたもいらっしゃいますが、そんなことはありません。廃棄部位は喫食者が選択できます。
「ししゃも類」の可食部位(成分値の分析に使われた部分)
ししゃも 頭部及び尾を除いた部分
からふとししゃも 魚体全体
4)「成分表2020(八訂)」の「ししゃも類」のおもな成分
成分表のししゃもおよびからふとししゃもの分析試料は、抱卵している子持ちししゃもです。雄だけを食べる場合は多少異なる成分になりますが、ししゃもを毎日食べるわけではないので、抱卵ししゃもの成分で代用しましょう。
表2に、ししゃもとからふとししゃもの重量変化率、廃棄率、エネルギーおよび主要な栄養素量を示しました。通常の喫食形態である「焼き」を太字にしました。
表2 ししゃも類のおもな栄養成分など
「ししゃも 焼き」と「からふとししゃも 焼き」は、両者を100g当たりで比較すると、全体を食べる「からふとししゃも」は脂肪酸のトリアシルグリセロール当量、コレステロール、カルシウム、食塩が高い値です。「ししゃも」は頭と尾を除いた値ですが、生も同様の傾向が見られます。
5)成分表2020(八訂)を使って、魚全体を食べる場合と身だけを食べる場合の栄養量をなんとか説明したい
子どもたちに「魚全体を食べると骨や頭に含まれる栄養素も身に含まれる栄養素といっしょに摂取できるよ!」と伝えるための便宜的な方法を考えてみましょう。
まあじ 皮つき 生 と、まあじ 小型 骨付 生 を比較し図1に示しました。前者は三枚おろしすなわち身の成分値、後者は内臓、うろこは除いてあるものの、頭、ヒレ、骨付きの魚全体の成分値です。
図1 「まあじ 皮つき 生」と「まあじ 小型 骨付き 生」の成分比較
まあじとまあじ 小型 骨付きでは同じ調理方法の料理がありませんが、類似した料理で比較してみましょう。まあじ 皮つき フライと、まあじ 小型 骨付き から揚げです。
図2 「まあじ 皮つき フライ」と 「まあじ 小型 骨付き から揚げ」の成分比較
なお、あじのフライは小麦粉、卵液、パン粉の衣をつけ、あじの5倍重量の植物油で調理したもの、小型あじの骨付きから揚げはあじの5倍重量の植物油で素揚げしたものです。つまり、衣の成分の影響の有無はあります。
さて、授業での子どもへの説明は図とともに以下の内容ではいかがでしょうか。
ししゃもは全体(頭、ヒレ、骨、身)を食べることができる魚です。全体を食べることが、ししゃもにとっても幸せなことだと思います。
食品成分表では、ししゃもの身だけの成分値はありません。そこで、魚を身だけ100g食べた場合と、全体を100g食べた場合について、あじの身と小型あじで比べてみましょう。(図示)
全体を食べると、カルシウムや鉄などの栄養素をたくさんとることができますね。
栄養教職員の皆さまの「ししゃもを全部食べてほしい」を伝えるために役立てていただければ幸いです。
写真/宮部浩司、鈴木雅也
9月4日追記
「廃棄部位は喫食者が選択できることはわかりますが、ししゃもはなぜ『頭部及び尾(10%)』を廃棄することになったのでしょうか?」というご質問をいただきました。
「ししゃも」も「からふとししゃも」も四訂時に収載されています。当時の事情の確かなところはわかりませんが、当時の基礎データはそれぞれ現在と同じ廃棄部位になっているので、四訂時には、類似した両者について、食べ方による相違(廃棄部位による相違)を知りたいと考え、それぞれに割り振った可能性があります。また、「ししゃも」の当時の普通の食べ方が、「頭と尾を除く」食べ方だったのでしょう。一方で、全体を食べる人もいるので、その結果も知りたいということになり、「からふとししゃも」は、全体になったと推察されます。更新の機会があれば、また変わるかもしれません。