油のいやなにおいの原因は酸素!
家庭で天ぷらを揚げるために使っているサラダ油や、古くなった油からいやなにおいを感じたことはありませんか?
植物油脂の製造では、まず、原料の植物を圧搾したり、n-ヘキサンと呼ばれる物質を用いて抽出することで、原油を採取します。原油は、その原料となる菜種、ごま、オリーブなどの特徴的な香気成分を含んでいます。
しかし、原油は、色が濃く、色素やたんぱく質などの不純物を含んでいて食用として適さないので、それらをとり除くために、種々の方法で精製し、植物油脂とします。この精製方法の違いで、同じ原料からでも、独特の香りを有する植物油脂やまったく香りのないものを製造することができます。
植物油脂だけでなく、動物油脂も新鮮な状態ではいやなにおいはほとんどありませんが、開栓した植物油脂や、畜肉や魚に含まれている油脂は、保存しているといやなにおいが発生してきます。これは、油脂が酸化しているからです。この酸化には、空気中の酸素の存在がかかわっています。
植物油脂の場合、未開封の商品は容器中にほとんど酸素が入っていませんが、一度開栓すると、空気中の酸素が油にとけ込んで油の酸化が始まります。酸化とは、物質が酸素と結合することで分解されて、別の物質に変化することを指します。
開栓した植物油脂は酸化が進む
動植物の油脂の主成分は、中性脂肪(トリアシルグリセロール)です。トリアシルグリセロールはグリセロールに3個の脂肪酸が結合したもの(図1)ですが、酸化が進行するとグリセロールから脂肪酸がはずれてきます。
このはずれた脂肪酸(遊離脂肪酸)が酸化されると、ヒドロペルオキシドと呼ばれる酸化一次生成物ができます。さらに酸化が進行すると、不快臭(酸敗臭)の原因となるアルデヒドや酸などの酸化二次生成物が生成されます(図2)。
これが、古くなった油のいやなにおいの理由です。また、酸化によってヒドロペルオキシド同士が結合した重合物ができてきますので、油脂の粘度が高くなります。
酸素が存在している状態の油では、熱が与えられたり光が当たることによって酸化反応がどんどん進みます。お店で買った植物油脂も、いったん開栓すると、油脂の酸化が始まります。
植物油脂のボトルに、「常温、暗所保存」と表示されているのは、開栓後の油脂の酸化ができるだけ進まないようにするためです。
また、商品によっては、遮光性のある褐色の容器が使われたり、酸化防止剤が添加されているものもあり、油脂の酸化が進まないようにくふうされています。
ただ、酸素があると油脂はかならず酸化されてしまうので、開封後はなるべく早く使いきることをおすすめします。
★次回は、「植物油原料のマーガリンが室温でかたまっているのはなぜ?」の予定です。
『栄養と料理』2020年~2023年に掲載し、好評だった西村敏英さんの連載「『おいしさ』を科学する」。 本誌に引き続きWebマガで連載!
食べ物の不思議 おいしさを科学する
調理や保存方法など、さまざまな要因によって化学反応を起こす食べ物。その変化は「おいしさ」に
どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
おいしく感じるしくみを科学的に解説します。
文 西村敏英 女子栄養大学食品栄養学研究室教授
え/飯山和哉
にしむらとしひで●農学博士。研究分野は「食肉と健康」、「食べ物のおいしさ」など。食べ物のおいしさの要因の一つである「コク」を定義し、「見える化(客観的評価)」と定義の「国際化」にかかわる研究活動を行なう。