11月になりましたが、まだ冷たい飲料がおいしいと感じられる暖かさがあります。野菜類や果実類の飲料は、無機質(ミネラル)やビタミンの摂取に寄与するので、食欲のない場合にはこれらの栄養素の補給には便利です。前回ご紹介しましたように、食品成分表の「野菜類」には青菜の飲料はありませんが、「し好飲料類」に「青汁 ケール」が収載されています。また、商品としての「青汁」は「野菜不足のかたへ」として販売されてもいます。
一方、茶は平安初期から栽培され僧や貴族らが飲用し、鎌倉時代には栄西(茶祖と称されています)により茶は体によいとすすめられ、現在も飲用されている伝統的な飲料です。その原料と製造方法から抹茶は伝統的な青汁ともいえます。
そこで、今回は新しい青汁の「ケール」と伝統的な青汁である「抹茶」について成分表2020(八訂)から考えてみましょう。
1)青汁は粉末?液体?
成分表2020(八訂)の「青汁 ケール」はなにを指すのでしょうか。
「日本食品標準成分表」(文部科学省)の資料の食品群別留意点を見ますと、緑葉野菜を搾った汁で、一般的な市販品はそれを乾燥処理して作られる粉末である。原料がケール主体のものと大麦若葉主体のものとがある。成分値は、ケールを原料とする市販加工品(粉末)を試料とし、分析値に基づき決定した。とあります。
一方で、「青汁」を『精選版 日本国語大辞典』で見ると
①青色の汁。生の緑葉野菜のしぼり汁。②料理の一種。ホウレンソウをゆでて、すりつぶし、白みそを混ぜてこし、すまし汁でといて魚菜などを入れた料理。と記されています。
また、『和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典』 では
①ケール・大麦若葉など緑色の野菜をしぼって作るジュース。冷凍や粉末にしたものを多くのメーカーが販売しており、ビタミンなどの栄養分や食物繊維の補給用に飲む。②みそ汁の一種で、ゆでたほうれんそうを白みそとともによくすり、だし汁でのばしたもの。とあります。
一般のかたがイメージする青汁は、成分表2020(八訂)の収載食品である乾燥粉末食品ではなさそうです。成分表の食品名も「青汁の素」「粉末青汁」「インスタント青汁」などにするほうが適切なように思えます。
2)青汁には主原料がケールのものと大麦若葉のものとがある
成分表に収載されている青汁は原料がケール主体のものですが、青汁には大麦若葉が主体のものもあります。それぞれどんなものかを「日本大百科全書」(ニッポニカ)や辞書、メーカーのサイトなどで調べてまとめてみました。
ケール
アブラナ科の多年草。キャベツの1変種で結球しません。葉が縮緬(ちりめん)状になる系統をケールといい、葉の縮みのないものをコラードといいますが、かならずしも明確に区別されず、一般にケールとよばれています。江戸時代に渡来しましたが食用としては発達せず、現在のケールは明治以降に改めて導入されたものです。若い葉を摘んで煮物やサラダにし、最近は青汁用として一般家庭でも作られ、飼料用にもされます。
大麦若葉
イネ科の植物である大麦の若い葉の部分です。煮物やサラダへの利用はほとんどなく、食用にはあまり向かないようです。
大麦若葉の成分値が気になるところではありますが、いずれにしても、料理においしく活用するのは簡単ではないようです。
3)「抹茶」は飲用以外に菓子などにも多用
抹茶は、茶の新芽を摘んで精製した葉茶を、臼でひいて粉末にしたものです。成分表2020(八訂)では、「し好飲料類」の〈茶類〉の(緑茶類)に区分されています。食品名は「抹茶 茶」です。ご自宅で抹茶を飲む習慣がなくても、抹茶アイスクリーム、抹茶入りチョコレート、抹茶入り餡を使った和菓子などで抹茶を食べている場合があるのではないでしょうか。
4)青汁と抹茶の主要な成分
「青汁 ケール」と「抹茶 茶」の主要な成分(100gあたり)とケールに対する抹茶の成分値の比率(抹茶÷ケール×100(%))を算出し、表1に示しました。
抹茶でケールよりも多く含む成分を太字にしました。100gあたりの成分量で比べると、抹茶はケールよりも食物繊維やカリウム、鉄、ビタミンA(レチノール活性当量)、α-トコフェロール、ビタミンK、葉酸などを多く含み、食塩相当量を含まないことがわかります。
表1 「青汁 ケール」と「抹茶」のエネルギーと主要な成分(100gあたり)
両者とも1回の使用量、1日に飲む量などは喫食者の判断にまかされる「し好食品」です。つまり、その摂取量は、香りや食感、味の好みや価格が影響する食品といえます。
この表を見ると、日本人が伝統的に飲んでいる抹茶は、おいしさはもちろんですが、栄養的にも青汁に期待されているさまざまな栄養素を含み、その栄養素の摂取に役立ってきたことがわかります。薬として考えられていたことにもうなずけます。
5)「青汁 ケール」7gの栄養量をキャベツやほうれん草と比べてみると…?
1日にどのくらい「青汁 ケール」を飲むかは喫食者の自由ですが、仮に、ある市販品の1日分2包装(7g)の製品を飲んだ場合を考えてみましょう。
ケールの仲間である「キャベツ 結球 葉 生 100g」、そして青菜の代表として「ほうれんそう 通念平均 生 100g」の値とそれぞれ比較(青汁 ケール÷キャベツ×100(%))または(青汁 ケール÷ほうれんそう×100(%))した値を表2に示しました。太字はそれぞれ青汁 ケール7gがキャベツ100gに比べ多く含む成分、ほうれん草100gに比べ多く含む成分です。
表2 青汁 ケール7g、キャベツ100g、ほうれん草100gの比較
青汁 ケール7gは、キャベツより食物繊維、カルシウム、ビタミンA、α-トコフェロール、ビタミンK、ナイアシン当量、ビタミンCを多く含んでおり、ほうれん草よりもエネルギー、利用可能炭水化物、カルシウム、ビタミンCを多く含んでいます。
青汁は、食品成分表に収載の時点では、常用される食品ではなく健康食品として認識されていました。そのため、飲みたいかたが飲むという意味で「し好飲料類」に分類されたのだと思います。野菜類に分類されれば「青汁を飲めば野菜類をとらなくてもよい」との誤解を招く心配もあったでしょう。
しかし青汁も抹茶も野菜類と類似の栄養を補えます。現在の利用者の状況を考えると、野菜類ともいえそうだと思いました。
旬の野菜を献立にとり入れ、おいしく食べることを心がけることが基本ですが、野菜摂取がむずかしい場合には、緊急避難的に青汁を利用することにしてはいかがでしょうか。抹茶もおすすめです。