【成分表連載50】初版のみその糖質量はミス!? 食品成分表の「みそ類」の変遷 その1

渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長

わたなべともこ東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。『八訂食品成分表2024』本表監修(女子栄養大学出版部)。著書に『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。

」 と「しょうゆ」 を順にご紹介してきましたので、今回は、日本の伝統的な塩味の調味料の一つ、「みそ」について、塩、しょうゆとの関係やその魅力、四訂成分表までの収載食品の変遷を記載します。

)「おむすび」から考える「塩」「しょうゆ」と比べた「みそ」の魅力は・・・

いよいよ今週からNHKの朝の連続小説「おむすび」がはじまりますね。平成元年生まれのヒロインが人々の健康を支える栄養士となり、現代人が抱える問題を“食の知識とコミュ力”で解決しながら、目には見えない大切なもの(縁・人・時代)をむすんでいく“平成青春グラフィティ”だそうです。楽しみにしています。

そこでまずは「おむすび」で「みそ」を「塩」や「しょうゆ」と比べてみましょう。ちなみにおむすびは漢字で書くと「御結び」で、「おにぎり(御握り)」とも呼ばれます。

塩おむすび、しょうゆおむすび、みそおむすびを比べると、

ごはんの存在感:塩おむすび>しょうゆおむすび>みそおむすび

調味料の存在感:塩おむすび<しょうゆおむすび<みそおむすび

の順に感じませんか。

みそは、しょうゆと異なり大豆などの原材料をそのまま含んでいるので、大豆等に由来する味や香りが、ごはんと同様にみその存在感を示します。また、みそは、塩やしょうゆと異なり栄養素も摂取できる、塩味調味料です。

塩、しょうゆ、みその同重量あたりの食塩相当量は、
塩>しょうゆ>みそ
の順に高く

エネルギー量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミンB1、ビタミンB2は、
みそ>しょうゆ>塩
の順に高くなっています。

日本料理の塩味の味つけは、塩、しょうゆ、みそで行われます。献立作成では、料理の塩味は、食塩で質量(重量)を決定し、その食塩相当量に相当するしょうゆの質量、あるいはみその質量を使えば、その料理の食塩相当量は、科学的(計算上)には同じ食塩相当量になります。

それぞれの調味料の使い分けや調味は、おむすびを基本に考えるとわかりやすいかもしれません。

 )初版成分表 : 2種類のみそが収載 

1950(昭和25)年に公表された初版の「日本食品標準成分表」では、みそは、豆類に2食品、「みそ(甘)」「みそ(辛)」が収載されています(表1)。備考欄に前者は、食塩6.8%、後者は食塩11.9%と記載され、辛みそは、甘みその1.75倍の食塩相当量であったことがわかります。初版の成分表は、残念ながら収載食品についての情報がないので、産地や商品名は不明です

表1「初版成分表」のみその収載値(100gあたり)

・『日本食品標準成分表』より。項目名や単位は出典の表記どおりにした。

3)改訂成分表:初版のみそ2食品の成分の改訂と成分項目の追加

「改訂日本食品標準成分表」[1954(昭和29)年公表]のみそも、初版と同じ2食品が豆類に収載されています。改訂成分表で変更になった成分とその値を赤字、新たに収載された成分とその値を青字で示しました(表2)。

改訂成分表も初版成分表と同様に分析試料についての解説はありませんが、糖質および備考を除く赤字の成分は、常用している食品の変化と考えられます。なお、「みそ(甘)」の糖質は、初版の20.8gから大幅に多くなっているため、初版成分表策定作業中の転記ミスとも推察されます(当時はパソコンもなく、手作業、算盤などなどでの計算でした)。ちなみに、「みそ(甘)」の初版成分表の一般成分の合計は90.0g、改訂成分表では100.0gです。備考の食塩相当量の数を整数にしたのは、有効数字2桁でよいと判断したものと考えられます。

表2「改訂成分表」のみその収載値(100gあたり)

赤字は改訂された成分や事項、青字は新規収載成分。

*1 リン:改訂成分表では「燐」と記載されている。  *2 ナイアシン:改訂成分表では「Niacin」と記載されている。