≪「おいしさを」科学する≫  Web連載最終回 隠し味ってなに?

皆さんは、調理をするとき、料理をよりおいしくするために、主要な食材や調味料以外の材料を少量加えることがありませんか?

このときの調味方法あるいは、加えた調味料や材料を「隠し味」といいます。

『広辞苑』には、「隠し味」とは「ある調味料を目立たない程度にごく少量加え、全体の味わいを引き立たせる調理法。また、その調味料」であると書かれています。「隠し」ですから、加えすぎて表面に出てしまうと隠し味ではなくなってしまいます。隠し味として加えるものは、メーンの料理の味わいを引き立てることが目的です。

私は、食べ物のおいしさの要因の一つとして、「コク」を定義し、発信しています(『栄養と料理』2020年2月号)。

コクとは、食べ物の味、香り、食感のすべての刺激で感じられる総合感覚であり、その感覚が複雑で、広がり(濃さ、強さ)や持続性(余韻)があるものと定義しました。

この中で、広がりや持続性を強くする物質として、うま味物質、コク味物質、香気物質、油脂などが明らかにされています。

これらは、いずれも少量添加することで、メインの食べ物の味わいをより濃く感じさせる、また、余韻を長くすることが明らかにされています。これらの物質は、油脂を除いて、濃いと「うま味」、「酸味」、「苦味」、「香り」を強く感じさせますので、閾値(感じる最低濃度)より若干高い、あるいはそれ以下のわずかの量を加えることで、「コク」の広がりや持続性をより強く感じさせることができます。

また、スープの調理の加熱工程では、肉や野菜から多くの味物質が汁に出てきたり、多くの香り物質が作られます。しょうゆやみそなどの発酵・熟成工程では、微生物等の作用で、多くの味物質や香り物質が新たに生成されます。しかし、これらの中のすべての味物質や香り物質が、閾値より高いわけではありません。私たちに味や香りを感じさせる物質は、全体の中の一部で、多くの物質は隠し味として食べ物をよりおいしく感じさせていると考えられます()。

隠し味の効果を持つ物質は、けっして表面には出ることなく味わいを増強させる「コクの増強物質」といえます。

以前、餃子にコーヒーゼリーを加えると、コクが出ておいしくなるからと、「コーヒーゼリー入りの餃子」を頂いたことがあり、コクが増強されるかを調べてみました。

実際に食べてみると、コーヒーゼリーの味わいが表面に出て、肉、にら、にんにくの味わいは弱くなり、もはや通常の餃子ではなくなっていました。

また、カレーに、隠し味として、フリーズドライのコーヒー粒を入れるとコクが増強されるといわれたことがあります。加える量が少なければ、隠し味としての効果が発揮されて、カレーはよりおいしく感じられるかもしれません。

しかし、入れすぎると、コーヒー風味のカレーができ上がることになるでしょう。これが、おいしいかまずいかは、容易に想像ができると思います。

隠し味は、表面に出てこないがゆえに隠し味ですが、少し多めに加えることで、違ったおいしさの料理を作ることができる可能性もあります。隠し味を意識した調理をして、新しいメニューを発見するのも楽しいかもしれません。


調理や保存方法など、さまざまな要因によって化学反応を起こす食べ物。その変化は「おいしさ」に
どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
おいしく感じるしくみを科学的に解説します。

文 西村敏英 女子栄養大学食品栄養学研究室教授
え/飯山和哉

にしむらとしひで●農学博士。研究分野は「食肉と健康」、「食べ物のおいしさ」など。食べ物のおいしさの要因の一つである「コク」を定義し、「見える化(客観的評価)」と定義の「国際化」にかかわる研究活動を行なう。