渡邊智子 学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長
能登半島地震により被害に遭われた皆さまへ、心からのお見舞いを申し上げます。
そして、ご家族や大切な方々を亡くされた皆さまへ、謹んでお悔やみを申し上げます。
私も昭和36年の給食時間に新潟地震により被災しました。校内放送により饅頭状に隆起した校庭に全児童が避難しましたが、津波によるゆっくりな速度の浸水が始まり、再度、屋上にあわてて避難しなおしました……。自然災害の恐ろしさと、復興のための多くの方々のご支援のありがたさを実感いたしました。
さて、2024年3月、卒業式シーズンです。職場や学校で新年度に向け準備をされていらっしゃるかたも多いのではないでしょうか。新年度用の『食品成分表』も各社から発行されています。ぜひ2024年度版の『食品成分表』を入手し新学期に備えましょう。
本格的に「成分表2020(八訂)」あるいは「成分表2020(八訂)増補2023」を活用したいと考える方も増えているようです。最新版の成分表を使いこなしていきましょう。
今回は、収載食品と収載成分値をどうとらえるかについて述べてみましょう。
1)「食品成分表」の食品とあなたが利用している食品の違いを考えてみる
日本の「食品成分表」は日本人が常用している食品を収載しています。
あなたが常用している食品と、成分表に収載されている食品がはたして合致しているかどうかを判断することはなかなか難しいですが、下記のような取り組みをおすすめします。
①あなたが常用している食品について観察してみる。
スーパーや食品売り場で売れ筋(主流)商品なのか、栄養成分表示があるものは表示内容はどうかなどを、気にかけておくことが大切です。
②旅行した時には、その地域のスーパーに行き、地域の食品を見てみる。
常用する食品を俯瞰してとらえるために役立ちます。
なお、商品の成分値は成分表の成分値よりも各商品に記載された栄養成分表示が優先されると考えましょう。
商品の栄養成分表示は「成分量が変わりました」のお知らせがないまま変更される場合がほとんどです。商品を購入したら、毎回、必ず栄養成分表示を確認することをおすすめします。
③成分表の食品とあなたが利用している食品との違いを考えてみましょう。
あなたが勤務している、または利用する給食施設のお茶は、どのくらいの量の茶葉を、どのくらいの温度と量のお湯で、どのくらいの時間かけて淹れていますか。あるいは、購入したお茶(ペットボトルのお茶)を利用しているでしょうか。
成分表に収載のお茶は急須で淹れたものですが、備考欄に侵出法が記載されています(ぜひ確認してみてください)。ご自分が淹れたり飲んだりしているお茶と比べてみましょう。
私たちの飲料の摂取量は1日1リットル以上の場合がほとんどなので、成分表での100 g あたり栄養素量のちょっとした差も、1日分で見ると、ある程度の栄養素摂取量の差につながります。
カリウム、ビタミンC、葉酸などの含有量を知っていると栄養アドバイスに利用できそうです(参考:連載第41回「し好飲料」の味方 お茶編)。
異なる方法で淹れたお茶もペットボトルのお茶も、現時点では成分表のお茶の収載値を利用することになります。給食施設でよく用いられる調整方法のお茶が成分表に収載してあればよいですが、現在はないので、栄養士や管理栄養士養成校等でこのようなお茶類の無機質等を測定してみるのも一考です。
このように、ほかの食品についても、あなたが常用している食品が、成分表の食品とほぼ同じ(成分表は日本全体で見ると常用されている標準的な食品が収載されているので、ほとんどはそうだと推察します)なのか、かなり違っているものがあるのかなどを考えてみてはいかがでしょうか。
2)「食品成分表」のエネルギーや栄養成分のバラつきの程度を考えてみる
成分表の収載値からは、それぞれの食品のエネルギーや成分値のバラつきはわかりません。
しかし、気になって当然ですし、実際に「成分表の収載値にはどの程度のバラつきがありますか?」という質問をよくいただきます。
そこで、それぞれの食品のエネルギーや成分値のバラつきを、食品表示基準における栄養成分表示の熱量および栄養成分別の許容差程度と考えてみてはいかがでしょうか(表。食品表示基準別表第九より)。
表 栄養成分表示の栄養素および熱量の許容差
食品100 g あたりで見ると、無機質とビタミン以外の成分である水分、たんぱく質、脂質、炭水化物は「g単位」で示されています(つまりそれくらい含まれています)。そしてエネルギーはおもにたんぱく質、脂質、炭水化物により産生されます。
水分、たんぱく質、脂質、炭水化物とエネルギーのバラつきは20%程度と、無機質やビタミン類よりも小さいバラつきです。
そこで、栄養計算結果についても、これらは20%程度のバラつきがあると考えておくのも一考です。つまり、エネルギーやこれらの栄養素量は、実際は栄養計算結果とぴったり同じではなく、20%程度相違がある可能性があると考えるということです。
一方、無機質およびビタミン類は、100g当たりの含有量はgの1000分の1の単位である「mg単位」、あるいは、1000000分の1の単位の「μg単位」で含まれています。食品分析による分析誤差も一般成分よりも大きいこともあり、バラつきも一般成分より大きいと推察されます。
無機質は許容差+50%、-20%を平均して35%程度のバラつき、ナトリウムは食塩添加の食品では20%程度のバラつきと考えるのも一考です。
なお、食品分析ではバラつきの範囲はプラスマイナスで同じ値になりますが、栄養成分表示ではプラス側に大きく示されています。おそらく、その成分量を保証する意味合いがあるからでしょう。
ビタミン類は、脂溶性ビタミンは許容差+50%。-20%を平均して35%程度のバラつき、水溶性ビタミンは許容差+80%、-20%を平均して50%程度のバラつきと考えてはいかがでしょうか。脂溶性ビタミンは、水溶性ビタミンに比べ、安定しているビタミンのためこのような値になっています。
「食品成分表」を信頼し栄養計算を行い、丁寧に給食を分配することが栄養計算結果を摂取してもらうために必須です。一方、成分表の収載値にはある程度幅があることも理解しておくことが必要です。
だからこそ、丁寧な栄養計算と丁寧な分配が重要です。
献立を立て栄養計算した栄養士・管理栄養士さんは、配膳する方(調理師さんなど)に給食を均等においしそうに分配することが重要な役割であることを伝えましょう。食べる人に献立内容を摂取してもらうには、配膳する方の理解と実施も必須です。だれにも平等においしい給食!をチームで届けましょう。