通常の殺菌法よりも高温で滅菌!
常温で長期保存できるロングライフ牛乳(LL牛乳)をご存じですか?
通常の牛乳は、開封前でも開封後でも10℃以下で冷蔵して保存する必要があります。それは、牛乳は栄養素が豊富であるため、有害菌による汚染が起こると短時間で増殖し、食中毒の原因となるからです。また、常温で長時間保存し、温度が上がったり、光や外気に触れたりすると、風味も悪くなってしまいます。
しかし、常温で長期間保存できるロングライフ牛乳は、これらの影響を受けない処理方法や保存方法が施されているため、未開封の状態で3か月程度常温で保存することができます。保存料が入っているわけではないのです。
スーパーなどで買ってくる通常の牛乳は、法令上では「市乳」と呼ばれています。農場で搾られた生乳がタンクローリーで乳業工場に輸送されると、「受入検査」、「清浄化」、目的の脂肪率となるように生乳の成分を調整する「標準化」、「均質化」、「殺菌」、「冷却」の工程を経て、「充塡」、「シーリング」がなされて、出荷されます(『栄養と料理』2023年12月号記載 )。
搾乳直後の生乳は、ほぼ無菌状態ですが、農場の環境、搾乳機器類、輸送中のタンクローリーなどから微生物が混入し、それらが増殖するので、消費者に衛生的で安全な製品を提供するために、充分な殺菌効果が得られる条件で加熱処理を実施しなければなりません。
乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)では、「63度で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること」と定められています。ロングライフ牛乳は、この製造工程の中で、「殺菌」から「シーリング」の工程が、通常の市乳とは違っています。
牛乳類の殺菌方法は、表のように、63~65℃で30分間加熱する「低温保持殺菌(LTLT)」、72℃以上で15秒間以上加熱する「高温短時間殺菌(HTST)」、120~150℃で2~3秒間加熱する「超高温瞬間殺菌(UHT)」が行なわれてきましたが、現在は、短時間で加熱殺菌ができるUHTが主流となっています(表)。
常温保存が可能なロングライフ牛乳は、UHTよりもきびしい130~150℃で1~3秒間滅菌し、無菌的に充塡する方法で製造されています。加熱温度は普通の牛乳よりも少し高いですが、栄養成分は普通牛乳と変わりません。
アルミ箔の容器で
味わいを保つ!
さらに、ロングライフ牛乳では、包装にもくふうがあります。
乳等省令では、牛乳類の容器としてガラスびん、合成樹脂製容器、合成樹脂加工紙製容器が許可されています。
ガラスびんは、再利用性に優れているので、宅配用などに利用されています。
合成樹脂製容器や合成樹脂加工紙製容器は軽いため、持ち運びが容易で低コストなことから、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの店頭販売用の商品に広く使われています。
一方、ロングライフ牛乳に関しては、乳等省令で容器として遮光性を有し気体透過性がない容器と規定されているため、アルミ箔を組み込んだ容器が使用されています(図)。
このように、ロングライフ牛乳では、充分に滅菌し、光や外気と触れないような容器に入れられているので、常温で長く保存しても微生物が増えません。
また、酸素や光に触れることがないので、その味わいは悪くならず、新鮮な状態を保つことができるのです。
ハイキングなど屋外へ持ち運んで飲んだり、災害時用の備蓄などにぜひご活用ください。
★次回は、「隠し味ってなに?」の予定です。
『栄養と料理』2020年~2023年に掲載し、好評だった西村敏英さんの連載「『おいしさ』を科学する」。 本誌に引き続きWebマガで連載!
食べ物の不思議 おいしさを科学する
調理や保存方法など、さまざまな要因によって化学反応を起こす食べ物。その変化は「おいしさ」に
どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
おいしく感じるしくみを科学的に解説します。
文 西村敏英 女子栄養大学食品栄養学研究室教授
え/飯山和哉
にしむらとしひで●農学博士。研究分野は「食肉と健康」、「食べ物のおいしさ」など。食べ物のおいしさの要因の一つである「コク」を定義し、「見える化(客観的評価)」と定義の「国際化」にかかわる研究活動を行なう。