Webマガ版2024年12月号「世界の朝ごはんめぐり」

文と写真/岡本啓史(国際教育家)

「マナウォーナ!」――マダガスカルではフランス語とマダガスカル語の2言語が公用語だが、マダガスカル人の家庭でよく使われているマダガスカル語(マルガシ語ともいう)の朝のあいさつ。本来は「元気?」を意味する言葉。ちなみにマダガスカル海岸部では「サラマ」ということもある。どちらの場合も、かけられた言葉と同じ言葉で返せばいい。

 まったく想像がつかないという人もいれば、島国、アニメ映画、大きな◯◯◯◯の木がある、△△△ザルという動物がいる等、連想する人がいるかもしれません(◯△の正解は後ほど)。

 マダガスカルは、アフリカ南東部沖に浮かぶ世界で4番目に巨大な島国です。アフリカやアジアなど多様なルーツを持ち、全動植物の約90%が固有種という生物多様性の点で非常に重要な国です。

 今回は、そんなマダガスカルのミミーさんの朝ごはんを紹介します。

 動画クリエイターでありインフルエンサーのミミーさんは、食をテーマにした動画を通じて母国マダガスカルや海外の文化を世界に発信中です。ミミーさんの顔写真からもわかるように、マダガスカル人は多くの日本人がイメージするような「アフリカ人」ではなく、アジア人に近いといわれています。ちなみに部族は20ほどあるともいわれ、多様性の象徴ともいえるでしょう。

 ミミーさんの今日の朝食は、シンプルにマダガスカルドーナツとコーヒー。小さなドーナツはマダガスカルの典型的な朝食で、軽食としても楽しめます。いろいろな種類のドーナツがありますが、どれもすべて米粉で作られています。おもな3種類は、以下の通りです。

 伝統的な調理法で作られるあつあつのドーナツが、街のあちこちにある小さなレストランで気軽に購入できます。それゆえに、多くのマダガスカル人は、ドーナツといえば自分で作るよりも買って食べることを好みます。また、国民の約79%が1日1.9ドル以下で生活する(2021年世界銀行データ)という貧困状態にあるマダガスカルですが、ドーナツは1個0.04ドル(約6円)で、「安いのでだれでも買うことができるし、ドーナツを食べながら雑談する人もいる」とミミーさんはいいます。

 マダガスカルと日本には、意外な共通点があります。何だと思いますか?

  1. アジア系の外見。
  2. 島国であること。
  3. 自然災害を受けやすい。
  4. 国民性は控えめでおとなしく、他人を優先し、特に目上の人には尊敬を示す。
  5. 日本と同じく「米」が主食。

 昼食や夕食にお米が出ない日はないともいわれ、お米とおかずを食べるのが主流です(マダガスカルのお米は日本のものより細長くパサパサしている)。今回紹介したドーナツも、一見お米と関係ないように感じるかもしれませんが、どれもすべて米粉から作られていて、「米」がふだんの生活に欠かせないのです。

 さらに、ドーナツや主食だけではないお米のバリエーションとして、マダガスカルには伝統的なお米の飲み物「ラノ アンパング (Rano ampango)」があります。これは、おなべで米を炊いたときに残った「お焦げ」に水を注いで煮立てたものです。その色からも「黄金のお湯」と呼ばれ、現地の昼食や夕食の食卓によく出てきます。お焦げの香ばしさと、お米のかすかな甘味が混じって飲みやすく、現地の食生活に欠かせません。食堂(オテリー)ならどこでもたいてい無料で出てきます。アフリカを含む海外生活が長かった日本人の筆者が飲んだとき、どこか懐かしい気持ちになりました。

 ミミーさん宅を訪問したとき、ふと視界に入って、すぐ”二度見”したのが大きなお米の袋でした。近くの米農家に電話をすると、家まで届けてくれるそうです。お米の生産から家庭への配達まで、地域の中でうまくつながるシステムができ上がっています。

マダガスカルの家庭に不可欠なお米。ミミーさんのお家にある50kgの米袋が積まれた様子は圧巻。

 私は、2019年-2020年にケニアの国連(UNICEF)で働いていました。親しい友人の1人に「リジャさん」というマダガスカル人男性がいました。国連職員といえば、自分のいいたいことをズバズバいう人が多い印象だった私にとって、「おとなしく他人を優先する」リジャさんに親しみを持ち、職場が変わっても連絡をときどきとる仲でした。

 2024年6月、私が念願のマダガスカル訪問を果たすタイミングで、リジャさんが「私も一時帰国して案内したい」と申し出てくれました。しかし、残念なことに緊急の仕事が入ってしまい、数年ぶりの再会はかなわないことに……。律儀で人思いの彼は「私のいとこの家族を紹介する」といい、その家族の1人がミミーさんだったのです。

 マダガスカルに到着したその日、会ったこともない外国人の私を空港まで迎えに来てくれたミミーさん一家。いろいろな場所に案内してくれたあと、マダガスカルの料理を学んでみたいという私のわがままに、何一つ嫌な顔をすることなく「私たちの家に行って、いっしょにごはんを作りましょう!」と笑顔で誘ってくれました。観光だけでなく、現地の人のやさしさや食に触れた経験をさせてくれたミミーさんと家族の皆さん、そしてリジャさんには本当に感謝しています。

 ……と、もうここで終わりのような流れになってしまいましたが、じつはマダガスカルやミミーさんとのつながりは、まだまだ続きました。

 私が海外に出て18年目というタイミングである2024年の夏、日本に帰国し、多様性や21世紀スキル向上のために「グローバル学び舎」を立ち上げました。その活動の一環として、「五感で世界を身近に感じよう マダガスカル編」というイベントを開催しました。

 ここではご紹介できなかったマダガスカルの食や映像、ストーリーや遊びなどを通じて日本人にマダガスカルの実態を伝え、その体験を「学び」につなげるという趣旨でした(詳細はこちらの記事)。そこで再び登場したのがミミーさん。日本と6時間差のマダガスカルから、ミミーさんにオンラインでゲスト出演していただきました。そのイベントの参加者たちは、マダガスカル料理やマダガスカル人と触れ合ったことがない人たちばかり。しかし、だれもがマダガスカルやミミーさんを好きになって帰っていきました。

 改めて、食は人と世界を繋ぐということを実感したものでした。

日本でマダガスカル料理を食べながらマダガスカルを学ぶ会に、オンラインでゲスト出演してくれたミミーさんと会場の様子。

 最後に、忘れたころにやってくる「穴埋め問題」のもう1つの答えです。

 マダガスカル特有の△△△ザルといえば、「キツネザル」。その中でも象徴的存在なのが、ワオキツネザルです。白黒のしま模様の体にピンと立った長い尻尾が特徴で、見ているだけで「世界は広い」と思わせてくれるような動物です。

 ほかにもカメレオンやフォッサなどのユニークな動物、時が止まったかのような絶景のインド洋、おいしいごはん、ミミーさん一家やリジャさんのような心やさしい人たちなど、マダガスカルは魅力たっぷり。もちろん、ここではあまり触れていない貧困や、国がかかえる課題もありますが、少しでもマダガスカルのすばらしさが伝われば幸いです。

【筆者プロフィール】岡本啓史(おかもと・ひろし)●国際教育家、生涯学習者、パフォーマー。これまで国連やJICA等で5大陸・45カ国の教育支援を実施。ダンサー、役者、料理人、教師の経歴も持つ。学びに関するブログを5言語で執筆し、ライフスキル教育、講演活動、グローバル学び舎運営など、日本内外で国際理解・幅広い学びやウェルビーイングの促進に注力中。著書『なりたい自分との出会い方:世界に飛び出したボクが伝えたいこと』(岩波書店)『せかいのあいさつ』全3巻(童心社)監修。サイト/SNS:https://linktr.ee/mdhiro

栄養と料理2024年12月号